大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(行ケ)25号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の目的及び要旨並びに本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、引用例に開示された技術内容の認定を誤り、ひいては、これと本願発明との比較において判断を誤つたものであり、違法として、取り消されるべきものである。すなわち、本願発明の要旨及び本願発明の目的、すなわち、本願発明が直進走行時においては路面に接触せず、隅角運転時において始めて路面に接触して、隅角運転特性の良好さを目的としたリブに関するものであることは、当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第四号証(引用例)の記載、とくに原告の指摘する引用例記載のタイヤに関する発明の目的及びリブの高さに関する各記載を総合すると、引用例のものは、原告主張のように、直進走行時路面に接触するタイヤリブにつき、「異なるリブの高さは異なつてもよい」旨の技術思想が開示されているに止まり、隅角運転特性の良好さを目的として直進走行時は路面に接触せず、隅角運転の際始めて路面に接触するようにするため外側の各リブの半径方向の高さを内側のそれより低いものとすることとした本願発明とは技術的思想を異にするものと認めるを相当とし、これを左右するに足る証拠資料はない。もつとも、前掲甲第四号証の第四、第五図及び図面の略解によれば、引用例にも、通常の荷重下においてタイヤ肩部のリブが路面に接触しないものが示されていることは、被告の指摘するとおりであるが、これらの図は、通常の荷重下における直進走行時のタイヤの形状を示したに止まり、もとより本願発明におけるように、隅角運転特性の改良を目的としたタイヤの形状を示すものでないことは、同号証全体の記載を比照することにより、おのずから明らかなところであり、これをもつて、前認定に消長を及ぼしうべきものではないし、被告挙示の乙号各証もこの点同断である。したがつて、本願発明において、その内側及び外側のリブの高さにつき前記のような差を設けたことをもつて、引用例から当業者の容易に想到しうる設計上の微差にすぎないとみることは、当を得たものということはできない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、一九五八年九月二十三日ドイツ国にした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和三十四年九月二十三日、「空気タイヤの改良」につき特許出願をしたところ、昭和三十五年七月十六日、拒絶査定を受けたので、同年十二月二十八日、これに対する不服の抗告審判を請求し、同年抗告審判第三、四二五号事件として審理されたが、昭和三十七年十月十日、「本件抗告審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年十月二十日、原告に送達された(出訴期間は昭和三十八年二月十九日まで延長)。

二 本願発明の要旨

一対の円周リブ又はブロツク列あるいは円周リブとブロツク列とが各肩区域内に互いに側面を近接させて在る如きトレツド部を有する空気タイヤにおいて、各リブ又はブロツク列が横方向に延びた突出部と凹入部とを有し、一つのリブあるいはブロツク列の突出部が他のリブあるいはブロツク列の凹入部内に突出し、各肩区域においてタイヤの側壁に近いリブ又はブロツク列のタイヤトレツドクラウンの曲率中心に対する半径方向の高さが同一肩区域内の他のリブ又はブロツク列の高さよりも低いことを特徴とする空気タイヤ。

三 本件審決理由の要点

本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、原査定の拒絶理由に引用された昭和二九年特許出願公告第五二号公報(以下「引用例」という。)には、タイヤについての説明が図面とともに示されている。請求人(原告)は、本願発明は、タイヤ肩部の側壁に近いリブは、同一箇所における他のリブよりも半径方向の高さが低い点で引用例記載のものと相違し、別異の発明を構成すると主張するが、引用例記載のものにおいても、異なるリブの高さは異なつてもよいとなつているので、隅角運転特性をよくするために、内側のものより外側のものを低くするようなことは、当業者が格別発明力を要しないで容易に想到しうる設計変更にすぎないから、本願発明は、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第四条第二号の規定により、同法第一条の特許要件を具備しないものである。

四 本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、引用例記載のものの開示する技術内容の認定を誤り、ひいては、これと本願発明との比較において判断を誤つた違法のものであり、取り消されるべきものである。すなわち、本願発明の要旨及び引用例にタイヤについての説明が図面とともに記載されており、このタイヤにおいて異なるリブの高さは異なつてもよいとされていることは本件審決認定のとおりであるが、引用例記載のものは、その発明の詳細なる説明中の「本発明の他の一目的は溝に沿う予定された間隔置きの部分が閉じられないで、路面との間において捕えられた水の流れ込む凹所を与え、かつ、該凹所の底部における水を逃す手段が設けられていて豪雨中にさえ路面との間の正しい接触が確実に保たれるようにされたトレツドを提供しようとするにある。」旨の記載(引用例第一頁右欄一七~二三行)から明らかなように、直進走行時路面に接触するリブの高さを問題とするものであり、直進走行時には路面に接触せず、隅角運転の際始めて路面に接触して、隅角運転特性の良好さを企図したリブに関する本願発明とは、技術思想を異にするものであるから、本願発明において、タイヤ肩部の側壁に近いリブは、同一箇所における他のリブよりも半径方向の高さを低くした点をもつて、当業者が引用例から格別発明力を要しないで容易に想到できる設計変更であるとした本件審決の判断は、誤りである。なお、引用例のものは、タイヤのクラウン部(直進走行時路面に接触する部分)及びシヨルダー部(肩部)を含むすべてのリブが路面に接触する場合の発明であることは、引用例の「リブはすべて高さが例えば〇・五インチであつてもよく、あるいは、異なるリブの高さは異なつていてもよい。」旨の記載(引用例第二頁七~九行)に徴しても明らかである。

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